落語の最近のブログ記事

 今年7月、来年の7月に桂三枝が文枝の名跡を継ぎ、六代桂文枝を名乗ることが発表された。

 2009年の元旦に産経新聞が三枝⇒文枝、きん枝⇒小文枝のW襲名という大誤報をかっ飛ばして2年半後、その半分が現実になったというわけだ。(もちろん後からどうなろうと誤報は誤報だ)

・「桂三枝さん、師匠の名跡「桂文枝」襲名へ きん枝さんも「小文枝」に」(2009/01/01/産経新聞/ウェブ魚拓)
どうも魚拓がアクセスしづらかったので、Internet Archiveも。
・「桂三枝さん、師匠の名跡「桂文枝」襲名へ きん枝さんも「小文枝」に」(2009/01/01/産経新聞/Internet Archive)
・「産経新聞の大誤報! 桂三枝の「文枝」襲名は事実無根だった」(2009/01/07/日刊サイゾー)
・「“文枝ではイスからこけにくい・・”「六代 桂文枝」襲名会見 全文掲載」(2011/07/16/NHK「かぶん」ブログ)

 私は三枝があまり好きではないけれど、そんなこととはもちろんまったく無関係に、もし誰かが「文枝」の名跡を継ぐのであれば、それは三枝しかいないとも思う。
 大阪大空襲以来長く上方に絶えていた定席の寄席の復活を上方落語協会会長として達成した(天満天神繁昌亭)こともそうだし、吉本興業という会社をここまで大きくしたこともそうだ。文枝一門の総領弟子であり、桂文枝一門家系図を見ればわかるように、現在の一門の大半を三枝とその弟子が占めているという状況でもある。


桂文枝一門家系図

 これでは大名跡を継ぐことへの圧力はどうしても三枝に行くだろうし、逆にそういう話があれば誰も反対のしようがないだろう。
 要は本人の意思次第と。

 この記事によれば三枝が「三枝」であった期間は45年。そこまで長く名乗り育てた名前を捨てることは愛着なり恐怖なり、いろんな思いがあったに違いない。

 過去の選挙出馬騒動など漏れ伝わってくるところだと三枝は功名心が強い人物らしいが、それでもやはりそれだけでは「文枝」の名前を継ぐ決心にまではいかないだろう。それでも選んだ「文枝」への道。状況はすべて彼を文枝にする方向へと流れていた。六代桂文枝がこれからどんな噺家になるのか1から見ることができるのだから、これは僥倖と思って見守りたいと思う。

 さてこれからは誰が「三枝」を継ぐのかといったことも、まあ近い将来ではないだろうけれど、三枝の弟子たちの間では念頭に置かれることになるんだろうな。

 いや別に、こういう話をしたいのではなかった。
 先代の文枝のこと。

 文枝といえば、私の印象は「素人名人会」の審査員をしていたことが一番強い。「素人」名人会ではあったのだけど、素人相手だろうと厳しい(つまりは真剣な)審査をしていたような気がする。

 小さい頃に見たその印象が強いのか、どうも苦手だ。
 もっと言うと、どうも私は文枝が怖い。(^^;;;

 先日、YouTubeで文枝の「たちぎれ線香」を見たら、その晩、文枝が夢に出てきた。なぜか私が新弟子として文枝に入門する。文枝はとても厳しくてかなりいじめられる……というそれだけの困った夢。(^^;

 イヤな夢を見たと飛び起きちゃったよ。

 で、まあこれも縁なんだろうと、その夢を見た日に見た「たちぎれ線香」の印象的だったシーンをここに貼り付けておこうと思う。

 これと米朝の「たちぎれ線香」を比べて、米朝のわかりやすさ、文枝の粋を感じていた。(YouTubeには米朝の「たちぎれ線香」がなかったので吉朝のものを貼り付けた。このシーンは米朝と同じに語っている)

 ちなみに「たちぎれ線香」というのはこういう噺。⇒たちぎれ - Wikipedia

 突然、素行を理由に100日間の蔵住まいを余儀なくされた大店の若旦那がようやく100日間後に蔵を出た。番頭から、恋仲である小糸(置屋の女将の娘)からずっと手紙が届いていたが80日目に途切れたと聞かされる。天満の天神さんに参詣すると告げて置屋に向かう若旦那。玄関先で応対した女中が女将に彼の来訪を告げるシーン。

「女将さん、若旦那が来てはります」
何を言うねんな。若旦那がお越しになるはずがないやないか

 と、文枝は噺す。
 これが米朝(吉朝)の噺し方はこう。

え? 私に『若旦那』だけではわからんやないかいな。……何やて? あのお方が来はるわけがないやないかいな

 確かにそうなのだ。置屋という仕事柄、「若旦那」という言葉だけですぐに誰のことなのかわかるわけがない。まして来るはずがないと思っている相手ならなおのこと。

 このへんのリアリティを、米朝は絶対に欠かさない。米朝の噺は親切すぎて怖いくらいだ。
 文枝にはおそらく、そういうリアリティよりも重視するものがある。
 米朝の噺は(文枝に比べれば)理が勝ったもので、文枝はもっと「粋」な噺こそが身上だったのだろう。

 だから私のような素人には米朝の噺の方がわかりやすい。
 玄人にどう映っているかは知らないけれど。

 昔の印象、そして長じてから聞いた噺も合わせて、どうにも文枝の噺が取っつきにくいのはこのあたりにあるんだろうなあ。

おまけ:

 私は文枝だけではなく文枝一門が苦手で(それぞれ別の理由で)、米朝一門、松鶴一門のような親しみが感じられない。あやめくらいか。小枝は落語を聞いたことがない。(^O^)

 しかし玄人の見方はもちろんずいぶん違うわけで(当たり前)、談志は三枝、文珍を高く評価している。

 なるほどなあ。

おまけ2:

 「たちぎれ線香」というネタは枝雀が追い求めたネタだった。
 その話をこのブログは素敵な文章で書いていた。

・「「たちぎれ線香」 桂米朝」(古典芸能・覚え書き)

突然食いたくなったものリスト:

  • とんかつ定食

本日のBGM:
Intuition /TNT






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 落語の「骨(こつ)つり」という噺は江戸では「野ざらし」という題名で演じられる、とされている噺だけども、実際は演じられる情景は結構違う。そのあたり詳しく紹介しているサイトもあると思うが、さっとググッて上位に出たのがこれだったのでここにリンクを張っておこう

 さて実は今回は噺の内容はあまり関係がない。
 噺にはマクラというのがあり、噺に入る前に少し、導入の話をする。噺の説明であったり一見何の関係もない話であったり、マクラを入れない噺家もいる。
 このあたりは噺家の個性が出るところでもあるが、マクラそのものも教わったとおりを演じる噺家もいる。

 で、聴いていると柳家小三治の「野ざらし」と桂南光の「骨つり」で、同じような話題を扱ったマクラがあり、その違いが興味深かったので文字起こしをしてみた。
 いずれも魚釣りの「キャッチ&リリース」に疑問を投げかけて笑いを取るというものなのだけども、その疑問の方向が違う。
 これは江戸と上方の違いといったものではなく、単に小三治と南光の違いということになるのだろうけども。「キャッチ&リリース」は比較的新しい習慣だし、それぞれ小三治、南光のオリジナルのマクラなのだと思う。

柳家小三治「野ざらし」
……
古い道楽ってぇとやっぱり、そうですねえ、釣りなんてぇのが、やーっぱり人間の歴史始まって以来というか、ね、趣味でしょあれ。まあ趣味じゃない人も中にはいるかもしんないけど。「俺はわざわざそんなとこ行かないよ。あんなものは。釣らなくって魚屋行きゃ買えるんだから」なんつってる人は、これは趣味に考えてないんですよ。趣味の人は釣れても釣れなくてもいいんです。ただこうやってりゃいいんですよ。ただ、わたくしねえ、ひとつあの、お尋ねしたいというか不思議なのはね、このごろね、その生き物をいじめちゃかわいそうだというので、スポーツフィッシングとかいうんだそうですね。なんか優しいんですってそれは。魚に対して。どういうことかってぇと釣り上げたものをわざわざ放してやるんですって。だから優しいっつぅんですけどねえ。……そうですかねえ。私は優しいんだったら釣らねえのが一番、優しいんじゃないですかねえ。こんなとこ引っかかってね、魚だって痛ぇよそりゃ。ありゃあわたくしはねえ、優しいんですかああいうの? 後ろめたくないんですか? 他の言葉で言いたいけど今日はね、言わないことにしますけど。ああいうのはねえ……まあいいや。ええ、ね。わざわざ外国まで行ってね、いっぱい釣れたけどね、1匹だけは食べるんで取ってきましたけど、あとはみんな逃がしてやりましたよなんてね。どうかしてるよ本当に。まあ実は私も釣りやらないんでね、……
 
桂南光「骨つり」
……
このごろは何でもエコロジーの時代でございまして、地球に優しく、自然を大切に、こういう時代でございますな。だから魚釣りも、そうなんでございます。池で釣ったりですね、川で釣ったり海で釣るんでございますけども、この、エコロジーな釣り方、ご存じでございますか? キャッチ&リリースと言いまして。どういうことかと言いますと、キャッチ&リリースなんでございます。普通はこう、魚を釣り上げて、ええ。それを持って帰ってですね、食べたりするんでございます。これをしないんでございます。キャッチする、釣り上げることは釣り上げますけども、これはですね、ええ、また針をきれいに外して、返してあげる。これ何かええように言われてるんですが、私どうもね、納得いかないんでございます。このキャッチ&リリースね。いっぺん考えてみたいと思いますけどね、例えば今日、この会場をひとつの池としましょう。で、私も含めて皆さん方も魚でございます。ね。人面魚みたいな方もおられますけども、魚としましょう。でみんなでわーわー言うてる、でこの上から、ねえ、人間が出した、針。ねえ餌がついてるのがくるわけです。で皆は分かってますから食いつきませんが、中に、1人くらいぼーっとした人がございますねえ。これパクッと食いつきますわ。でシュッとあげられますわ。さあ、あげられたあと、皆で黙ってまっか? 黙ってまへんで。「あいつアホやなーあいつ、人間がやっとんの分かったあんねやおい、えぇあっこのお父っつぁんもあれで釣りあげられたんやわほんまに。マヌケやなあ、あっこは代々アホやなあの家は」てなこと言うてるとこへ、返されるんでございますよ。あと生きて行けまへんで魚があなた。ねえ。それやったら持って返って食べてあげたほうがですね、イワシとしてはですね、いいんじゃないかと思うんですけども。
……
(※最後「イワシ」というのがよくわからないが、どうもこう言ってるように聞こえる)

 小三治はそんなに知らないのでわからないが、南光の方は、いかにも彼らしい話だと思う。

突然食いたくなったものリスト:

  • 鶏の唐揚げ

本日のBGM:
夢から夢へ /チャゲ&飛鳥






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 前のエントリのコメント欄で少し話題になった、落語の「らくだ」という演目の話。

 全体のストーリーは面倒くさいので「らくだ (落語) - Wikipedia」を読んでもらうとして、これのある一部分の話。

 「らくだ」という通り名の男が長屋の自分の家で死んでいて、それをらくだの兄貴分が見つける。兄貴と呼ばれていた手前、葬儀を出してやりたいがバクチで全部盗られてカネがない。どうしようかと思案していると、ちょうどそこに屑屋が通りかかる。呼び止めて家財道具一色を買い上げろと迫るがこの家には買い取るものは何もないという。じゃあ仕方がない、長屋の月番のところに行って香典を集めるように言ってこいと半ば脅しのようにして(1)屑屋を使いにやる。帰ってきた屑屋に、今度は大家のところに通夜に出す酒と肴を持ってこいと言ってこいと、また脅す。(2)屑屋が大家のところに行く......

 この(1)と(2)の部分の描写(屑屋が出向いて行き、らくだが死んだことを告げて相手がそれを信じるまでの描写)が演者によって様々で、この違いがなかなか興味深い。

 書き出してみたので、興味があれば読み比べてみてね。

林家染丸(3代目)
 
【月番のところ】
屑屋:へぇこんにちは。あのーちょっとお伺いしますが。あのー、今月の月番は、あのーお宅さんでおますかいなあ?
月番:ああ、月番うちやがな。何やな、屑屋はん?
屑屋:えぇ、ちょっと言付け頼まれましたんで。
月番:ほう何ぇ?
屑屋:あのー、長屋のらくだはんがゆうべフグにあたって死にましたんでね。
月番:え? らくだ死によったかァ。はぁ、こりゃめでたいなあ。
屑屋:そんでその、兄弟分のね、脳天の熊五郎ちゅう人が......

【大家のところ】
屑屋:こんにちは。
大家:おお、屑屋さんか。今日は何も売るもんはなかったで。
屑屋:いやあの、今日は屑買いに来たんやおまへんので。
大家:おぅ? 商売替えでもしたんかい?
屑屋:いやあのー、言付けを頼まれましたんでおまんねん。あのー、お宅の長屋のね、あの、らくだはんがゆうべフグにあたって死にましたんで。
大家:えぇ? らくだが死によったかいな。あぁそうかァ。こらもうすっぱりしたなぁ。ぁあそうかァ。それを知らしてくれたんか? おぅおぅおぅ、おおきにおおきに。
屑屋:えー、ところがそのぉ、兄貴分のね、脳天の熊五郎ちゅうのがあの......

三笑亭可楽(8代目)
 
【月番のところ】
屑屋:こんちはー。
月番:何だい屑屋ァ?
屑屋:今月の月番こちらでしたか?
月番:そうだよ。
屑屋:あの、裏のらくださんが死んだんです。
月番:え? いつ? ゆうべかい? どうして? フグ食べたあいつが? ......そうかい、そりゃいいことをしたなあ。
屑屋:でその、らくださんの兄ィって人が......

【大家のところ】
屑屋:ごめんなさい。
大家:だぁれ? 何だい屑屋さんじゃねェか。一昨日払いもの取りに来て、そんなにうちには払いものァ溜まってねェぜ、え? 払いものじゃねぇのかい? 何だい?
屑屋:あの、裏のらくださんが死んだんです。
大家:え? いつ? ゆうべかい? どうして? フグ食べて死んじゃった? ありがたい。そりゃああたしゃ助かったねぇ。
屑屋:でその、らくださんの兄ィって人が......

金原亭馬生(11代目)
 
【月番のところ】
屑屋:ええ、月番さん、こちらですね。
月番:おお何だい屑屋さん。何も払いもんなんざァねェぜ。
屑屋:今日は商売でうかがったんじゃないんです。らくださんなんですが。
月番:へッ? らくだがまた暴れてんのかい?
屑屋:そうじゃないんですよ。ゆんべフグにあたって死んだんです。
月番:らくだが死んだ? そりゃいいことをしたねェオイ。フグにあたったの? よくあててくれたなあ。おい、生き返ることはねェんだろうなァ? 今のうち頭ァ潰しとけ。
屑屋:蛇だねまるで。で、兄貴分て方が......

【大家のところ】
屑屋:ごめんくださ~い。
大家:はいは~い。おぉい、表にどなたかお見えになってるぞ。え? 屑屋さんが来ました? 屑屋? 屑屋! お前ェ勝手口へ回れよ。
屑屋:今日は屑屋じゃないんでございます。
大家:商売替えしたのか? 何の商売だっておんなじだい、いいじゃねェか。
屑屋:やっぱり屑屋なんです。
大家:何なんだよ?
屑屋:らくださん......
大家:え? らくだが? 暴れてる? しでかしてるのか?
屑屋:いえ、そうじゃないんです。ゆんべ、フグにあたって死んだんでございます。
大家:らくだが死んだ? そーかいそりゃあよかった。わざわざ知らしてくれたのか、すまなかった。婆さん、聞いたかよ? らくだが死んだとよォ。今朝茶柱が立ったからなあ。何かいいことがあるに違ェねェと思ってたんだよ。そうか、ご苦労さんご苦労さん。
屑屋:で今、兄貴分てぇ人が......

柳家小さん(5代目)
 
【月番のところ】
屑屋:ごめんください。
月番:おう。
屑屋:えー、こちら様が今月の月番さんで?
月番:おー、俺んとこが月番だい。何でぇ屑屋さんじゃねェか。
屑屋:ええ、あの、お長屋のあの、らくださんですけどねえ、
月番:うん
屑屋:ゆんべフグを食べてね、それにあたってあの、亡くなりました。
月番:え? らくだが? フグ食って死んだ? そいつはいい塩梅ェだなァ。そうかい。何でぇおまえ、わざわざ知らせに来てくれたのか?
屑屋:いいえあの、そのらくださんの兄弟分って方ァ......

【大家のところ】
屑屋:ごめんください。ごめんください。
大家:ヲい! 誰だい? おお何だい、屑屋さんじゃねぇか。ええ? こないだ何だなァ、出したばかりでまだそうは溜まっちゃいねぇぜ。
屑屋:いえェあのう、何でございます、屑をいただきに上がったんじゃないんでございます。
大家:何だい、何か商売替えか?
屑屋:いえいえ、実はあの、お長屋のあの、らくださんですけども。
大家:らくだがどうしたんだい?
屑屋:ゆんべ何でもあの、フグを食べましてね。そのフグにあたってあの、亡くなりました。
大家:え? らくだが? フグを食って死んだ? ほんとか? ほんとに死んだんだな? 嘘じゃねぇなあ? おい何? お前がちゃんと見たのか? そうか、そいつァよかった。生き返ェるようなことはねェだろうなあ? 今のうちに頭ァ潰しといた方がいいぞオイ。ほぉ、そいつァありがてぇ。よくも知らせてくれた......何かい、お前が、わざわざ?
屑屋:いえいえあの、実はナンでございますあの、らくださんの兄弟分......

桂米朝(3代目)
 
【月番のところ】
屑屋:えー、ごめんを。
月番:お、屑屋はんかい? 呼べへんで。
屑屋:いやそやないんで。ゆんべあの、お長屋のらくだはんが死にましてな。
月番:らくだが死んだ? よかったなァ~。そうか、ええ、フグにあたって死んだ? おーそうかそうか。ほんでそれおまえ、知らしに来てくれたんか。
屑屋:いやそやおまへんねん。その、きょ、兄弟分の熊はんちゅう男が......

【大家のところ】
屑屋:ごめんを!
大家:屑屋はんやないかい。お前昨日か一昨日か来たとこやろ? 紙屑てなもんそない毎日たまるもんやあれへん。
屑屋:そやおまへんねん。実はゆんべ、お長屋のらくだが死にましてな。
大家:らくだが死んだ? ......助かったなァ! そうかええ? フグにあたって? うわァ、天罰じゃ。うんうん。それでそれをお前、知らしに来てくれたんか。
屑屋:いやそやおまへんねん。その兄弟分ちゅうのが来てましてな......

笑福亭松鶴(6代目)
 
【月番のところ】
屑屋:ごめん、こんちは!
月番:ヲぃ! 誰や? ああ屑屋はんかい。何や?
屑屋:へえ、あの、この長屋のらくだはん、ゆうべ、フグぅ食うて死にはりましてん。
月番:何? らくだが? フグにあたって死んだ? ほんまかい? 屑屋、なぶってんねやなかろうな? ほんまに死によったんか? ほんまに? はーーーーーーーはっは! よう、よう知らせてくれた。よう知らせてくれた。おおきにおおきに。はぁー、これはもう長屋の連中にすぐに知らすわ。皆喜ぶわ。
屑屋:それについて、あのね、あの、兄弟分の矢田桁の熊っちゅう......

【大家のところ】
屑屋:ごめんやす!
大家:はい、どなたじゃな? あ、紙屑屋はんかいな。あんた昨日来たやないかい。紙屑てなもんはな、そない毎日出るもんやないねんで。
屑屋:ええ、そら解ってま、ええ。今日は商いやおまへんねん、へぇ。実はあの、お宅の長屋に住んではった、らくだはんが、ゆうべフグぅ食うて、それであたって死にはったんですわ、ええ。
大家:何やて? らくだが? 死んだ? 死んだ? 婆さん、婆さん! 聞いたか? らくだが死によってんと。ええ? はーははははは! あーやれやれ。助かった。よォ~死んでくれた。いやあ、えらいはばかりさん。よう知らしてくれた。
屑屋:へぇ、それについてあの、兄弟分のね、矢田桁の熊はんていう人が......

柳家小三治(10代目)
 
【月番のところ】
屑屋:こんちはー。
月番:あーい。おゥ何でェ屑屋さんじゃねェか。今日は払いもんねェぜ。
屑屋:いえ、あの、今日は......それじゃねぇんですよ。......こちらが今月の月番さんですよね?
月番:オゥそうだよ俺んとこ月番だ。
屑屋:あのう、実は、奥のらくださんが、亡くなりました。
月番:ええ? らくだが? ......死んだのかい? ほんとかよおい。......いつ? ゆんべ、フグ食って、あたって死んだ? ......そらァありがてぇねえおい。いやァあれがいるんでもう長屋の連中は枕を高くして寝らんねェよおい。あああんなイヤな奴はねぇんだよオイ。そうかい。ハァ~そりゃありがてぇやオイ。いや~ありがてぇありがてぇ。よく知らしてくれたなァ。
屑屋:それでねえ、らくださんの兄さんって人が......

【大家のところ】
屑屋:こんちは~。
大家:はい、誰だい? ああ、何だい屑屋さんじゃねェか。おい、3日前に出したばっかりだぜ。3日の間に払いものなんざ溜まりゃしねぇや。
屑屋:いえ、あの、今日はそういうナニじゃねェんすよ。えー、実はですねえ。お長屋のらくださんが......亡くなりやした。
大家:らくだが? 死んだ? そりゃいい塩梅ェだ! ほんとかよおい? へぇ~! こらまぁ......えぇ? ありが......お、おい、婆さん! 聞いたかい今の、え? らくだが死んだとよォおい、え? こりゃよかったなあ。いやぁありがてぇありがてぇ! よかったよかった。ああ。よかったなァ!
屑屋:......いえ、それでですねえ。あのぉ......えーえー、それはあの、いえ、あの......ゆんべ、亡くなったんです、ええ。あの、フグ、食べてね。いえそれはいいんですけど。らくださんの兄さんって人がいましてね......

三遊亭円生(6代目)
 
【月番のところ】
屑屋:こんちは。
月番:誰だい? よォ、何だい、久さんかい。何だい?
屑屋:えー、らくださんがゆうべ、亡くなったやすが。
月番:へ? 誰が? らくだが? 死んだのかい? へー、そうかい。死ぬ野郎じゃねェんだがナァどうも。
屑屋:何でもフグにやられたという......
月番:へぇ~、そうかいまぁ......まぁまぁ何にしても、そりゃあよかったねえ、あぁあぁ。......で、知らせてくれたのかい?
屑屋:えぇ今、そのらくださんの兄貴分てェ方が来ているんで......

【大家のところ】
屑屋:ごめんくださいまし。ごめんくださいまし。
大家:はぁい、誰だい?
屑屋:こんちは。
大家:あぁ何だ、屑屋じゃねぇか。いくら商売ェ熱心だってお前ェそう度々来たってありゃぁしねえよ。一昨日持ってったばかりじゃねェか。
屑屋:いえ、今日は屑屋じゃないんでございます。
大家:何だい、商売替えかい? よしなよしなよォ。慣れもしないことをやってオイ、損をするくらいが席の山だぜェ。何になっだんだ今度は?
屑屋:いえ......やっぱり、屑屋なんです。
大家:な~にを言ってんだ? だってお前ェ「屑屋じゃねェ」って。
屑屋:いや、商売で上がったんじゃないんですが、あの、お知らせがございますんで。長屋のらくださんがゆうべ死んだんでございます。
大家:え? 誰が? らくだが? 死んだ? ゆうべ? ......おい、お婆さん、らくだが死んだとよォ。え? ゆうべ。あっははははっはっはは~。死にやがったってよォあの馬鹿~え? ど、どうして死んだんだ? え? あぁあぁ、フグ? フグだとよォ婆さん、え? ああ。はっはっはは~あっははは~はァ、いい気味だよ死にやがったって。ははははそうかい。はァ~それはまあ何にしてもめでてェこったそりゃ。うんうん。うんうん。知らせてくれたのかいいやァどうもご苦労さん。
屑屋:それからあの、今、らくださんの兄貴分てェ方が......

古今亭志ん生(5代目)
 
【月番のところ】
屑屋:月番は、お宅ですか?
月番:あい! あたしだ! 何だい?
屑屋:あのぉ、らくださんのことで......
月番:あっとっとぃ、ちょっとお待ちよおい。ダメだよらくだのことここに持ってきちゃってもダメだよ。うん。そりゃいけないよ。
屑屋:いえ、あのォ、らくださんが死んだんでございます。
月番:え? らくだ死んだ? ほんとかい?
屑屋:そうなんですよ。
月番:へぇー。......生き返りゃしねぇかい?
屑屋:生き返りません。
月番:いやそうじゃねぇよ、ああいう図々しいのは生き返るかもしれないから、頭よく潰しとかなくちゃいけねえよ。
屑屋:フグにあたりましたねえ。
月番:フグにあたった? へぇ、フグもよくあてやがったな。そうかい。
屑屋:それでその、兄弟分という......

【大家のところ】
屑屋:こんちは!
大家:ああはい、誰だい? 誰だい? あああ、屑屋さんか。ねぇなあ。今日はないよ。お前に払ってくもん。
屑屋:いえ、使いに来たんです。
大家:ほぉ、何だい?
屑屋:あのお、らくださんのことについて。
大家:またあいつが何かやったのかい? また困るよ。らくだのことをこっちィ......かまう人間が悪いんだよぉ。
屑屋:いえ、らくださんもう死にました。
大家:え? らくだが死んだ? うん......ほんとかよオイ? そんなこと言ってお前さん人を喜ばして......おいほんとかよ?
屑屋:ほんとなんですよ。
大家:へぇ~え。おいお婆さんや、え、らくだが死んだと。よく死にやがったなぁあいつは。フグがあてたのかい? フグを祀るよ俺んところで。......それで?
屑屋:兄弟分てェのが1人いましてなぁ......

立川談志(7代目)
 
【月番のところ】
屑屋:こんちは。......ちは!
月番:おう、誰? おう、金さんか、屑屋の。何だい? 屑? そうはねぇわな。一昨日だよ確か。おう。ないよ。
屑屋:いえいえ。屑屋じゃなくて、らくださんねぇ......
月番:おっとっとっとっ、畜生、よせやいらくだの話なんて持ち出すなよ。悪い野郎だなァあいつは。え、うん。やられたんだろ? こんなことやられたのか? 絞められた? え? そうじゃない? これ取られちゃったのか? どうしたよ勘弁してくれよみんなやられてんだよ。な、これは諦めろよ。
屑屋:死んだんすよ。
月番:誰が? らくだが? フフン、喜ばせようったってそうはいかないぞおまえ、え? 何で死んだんだい? 死ぬような奴じゃないよあいつは。ああいうのは生涯死なない、ことによると。うん。ふざけた野郎だねェ。こんなんなってさ。そんな話よくあるんだよ。うん、みんな嘘。
屑屋:死んでるの見てきたんすよ?
月番:誰が? お前が? ほんとに? ほんとかよおい、フ(笑)......何で死んだんだい?
屑屋:フグにあたって死んじゃったんす。
月番:フグにあたって......らくだが死んだ? そりゃありがてぇなあ! え? おい! らくだァ死んだってよ! らくだ! 死んだってよォ! ......ほんとかよォおい。ありがてぇなあ、おい。らくだァ死んだ? え、うん。嘘じゃねぇだろうな、え? 嘘言うとただじゃおかねぇぞお前殺しちゃうぞふざけやがって。え? おい。らくだが死んだ? どォしたい?
屑屋:それでね、丁の目の半治っていう......

【大家のところ】
屑屋:こんちは! ごめんください。
大家:はい! だぁれ? どなた? いやァあたしが出る、ああいいよ......。ああいらっしゃい。えー、ど......、あ、あァ? なんだと思や、屑屋じゃねえか。何してやんだ間抜けめ、裏へ回れ裏へ。表から来やがって。身分を知れ身分を。ふざけやがって。え?
屑屋:その、屑屋で来たんじゃないんです。
大家:商売替えか? 何してんだねェお前が屑屋になんのに一枚噛んでるんだぞ俺が。手前ぇが落ちぶれて困ってるっていうから屑屋に脇に回ってもらってお前に......
屑屋:いいやいや、そうじゃないんです。あの、らくだ......
大家:あったったったい、ちょ、馬鹿。らくだの話をするんじゃない。大きな声で。バァさんが聞いたらどうなるか、え? らくだときいたら表飛び出しちゃうんだからバァさんは。らくだと落語と間違えて逃げちゃった。え? どうしたこんなことか? これか? え? 取られたの? 勘弁してくれよォ。あたしはどうにもしょうがねえんだあいつばかりはねえ。
屑屋:いえ、勘弁も何も、死んじゃったんですよ。
大家:誰が?
屑屋:らくださんが。
大家:フフフフ。ほんとかい? 嘘だろ?
屑屋:本当ですよ。フグにあたって死んじゃったんですから。
大家:ほんとに死んだの? らくだがフグにあ......でおまえさん見た? 死んでた? へぇーありがてぇ! よくあてやがったフグも偉ェそのフグは。並大抵のフグじゃねぇ、フグのこれは石塔か何かおっ立ってやりてぇくれぇなもんだ、アァ。ほ、ほんとに死んだのか? ......そーかぁ。いや、今朝茶柱が立ったから何かいいことがあるんじゃねぇかと思ったがな、うん。で、大丈夫か? 生き返りゃしねぇか? ああいう図々しい奴は生き返るぞ。今のうちに石で頭を潰しといた方がいいんじゃねぇか?
屑屋:死んでます。
大家:......そーか、死にやがった! うはははは。バァさんよ、らぁくだ死にやがった! よーしよーしよしよし、肩の荷が下りた。どうした?
屑屋:丁の目の半治とかいう奴が......

立川志の輔
 
【月番のところ】
屑屋:こんちは! こんちは!
月番:はい! おい何だ、久さんじゃねぇか。ええ? 屑かよ。おい冗談じゃねえやな。この前来たばかりでいくら貧乏長屋だってそんなもの急に溜まるわけはねえじゃねェか。
屑屋:いや、今日はあの、屑屋で来たんじゃねぇんです。
月番:何だい?
屑屋:あの、らくださんが......
月番:馬鹿。何てこと言うんだい急にィ。何の支度もせずに急に「らくだ」なんて言うなよォ嫌いなんだから、え? らくだの話がしたかったら手紙で今度らくだの話をしに行きますとか何とかって言えよお前。あるいは入ってくる時におそるおそるな、ら、ら、らく、らく、らくだ......とか何とかお前、活用して入ってこい。この野郎本当にまぁ。チッ、何だいどうしたんだい? 俺嫌ェなんだよ。話聞くのもヤなんだどうしたの? 殴られたの? 蹴られたの? 物盗られたの? それともオカマ掘られたの?
屑屋:いやそうじゃないんです。し、死んじゃいましたよ。
月番:死んだ? この野郎お前、いい加減なこと言って人を喜ばせるなお前。あんなものは死ぬわけねえじゃねェか。ど、どうやったって死なねェよ!
屑屋:いえいえ、あの、フグにあたったそうですよ。
月番:フグにあたったそ、そうですよっていう噂だろ。そういうのはよくある、うん。うん。うん。この前もそう。らくだが半殺しの目に遭って息も絶え絶えだとそういう噂があったんだよ。でみんなで駆けつけていったらそうじゃないんだ。らくだにやられた奴の話なんだよ。で、らくだがこうやって笑ってたもん、ああ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。いいよいいよ。いいってさ。
屑屋:いえそうじゃないんです。私この目で見てきたんですよ、ええ。あの、死んでましたから。
月番:ほんとかおい? ほんとにらくだ死んだの? ほんとに? ......おい、喜ぶよ? おい、喜んでから嘘だっつったらお前殺すよお前。喜んでいいの? 喜んでいいの? なぁ、喜んじゃうよ。おおおおおお! 死んだからくだが! 嬉しいじゃねぇかおおおおああああ! おいおい誰かに知らせてくれよオイ。誰かに分けたいじゃないかこういう幸せをよォ。......お、おい源ちゃん源ちゃんこっち来い! らくだが死んだらくだが死んだ、おいおい久さんが言うんだから間違いねェ。フグにあたって死んだんだとよォ。ああ嬉しいな、おおおおい、ええ? よく、よく死んでくれたよな。
屑屋:そ、そうなんです。あの、それであの、あたしちょっと今、寄っただけなんですけども、実はあの、丁の目の半治って兄分が......

【大家のところ】
屑屋:こんちは。こんちはー。
大家:はいはい。すいません、どなた様ですかな。今そこへ出ま......馬鹿! 屑屋! 久公! お前は何様だ? 屑屋だろこの馬鹿野郎。裏から回れ、裏から!
屑屋:いえあの、屑屋で来たんじゃないんです。
大家:もう商売替えか? 馬鹿野郎。お前がこの長屋に入るには随分と苦労して、あたしが今までいた屑屋を脇にどけてお前を入れて......
屑屋:いやそうじゃねぇんですよ。あの、らくださんが......
大家:あッ! ......馬鹿野郎。心の臓が激しくなっちまった。何でそうやっていきなり喋るんだらくだのことを。うちの婆さんに聞こえたらどうするんだ、婆さんなんざあたしよりもっと嫌いなんだ。この前「らくご」つっただけで表ェ走り出したくらいなもんだ。馬鹿野郎、本当に。......え? 何だい、どうしたかわからねえが確かにうちの店子だ。うちの長屋の者には違いないが、もう、そうであってそうでないんだよ。な? わ、わかった。何をされたのか知らねェがな。あたしんところにそれ持って来られても、あたしはとてもそんなものは背負えない。いいから諦めておくれ。
屑屋:いえそうじゃないんです。あの、らくださん......死んじゃいましたよ。
大家:何? らくだが死んだ? フッ......つまらない世辞を言って喜ばせんな人を。あんなものが死ぬか。死んでほしいねえ。あたしゃとにかくあたしの目の黒いうちに死んでもらわないとあたしゃ死ねないよ悔しくて。ええ? 一日も早く死んでもらいたいねえ。
屑屋:いや......ほんとに死んだんです。あのフグにあたったんです。あたし死んだのそれ見て、ここに知らせに来てるんですよ。
大家:......何? ほんとに死んだのか? ほんとに死んだ? 喜ぶぞ? 死んだか? ......婆さんや、婆さん! らくだが死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだよかったなァー。今朝茶柱が立ったから何かいいことがあると思った。そーからくだが死んだかよかったよかったよかったァー。あーうーれしー何? フグにあたった? よくあてたなそのフグも。フグの像を建てよう長屋の入口に。ああフグに会いたいッ!
屑屋:であの、丁の目の半治っていう兄分の人が......


 

突然食いたくなったものリスト:

  • 吉四六の焼飯

本日のBGM:
A Hard Day's Night /ちわきまゆみ
Day Tripper /YELLOW MAGIC ORCHESTRA

YouTubeのビデオには、「ぶっ飛んだテクノアレンジの名曲対決です  1/ ちわきまゆみ - A Hard Day's Night  2/ Devo - (I Can't Get No)Satisfaction 」とかいってDEVOのカバーも入ってる。でもこの曲と対決させるんだったらやっぱりYMOの「Day Tripper」だよねえ。




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