【追記2010/08/11】
【訂正2010/08/10】意味が通じにくい部分があったので、色々推敲しました。
※この記事はこのブログの読者の中でもニセ科学関連の議論にコミットしている方には言わずもがなのことだと思いますが、そちらにはあまり興味のない、例えばラーメン関係の記事を目当てにアクセスしてくれる読者にも知っておいてもらいたいと思って書きました。
なのでもし間違いの指摘や補足情報などありましたら、コメント欄に書いていただければありがたいです。
個別記事の下部にははてブコメントも表示されるようになっています。
◆
この1ヶ月ほど、ホメオパシーを巡る...いや少なくともホメオパシーの周辺を巡る話題はそれまでと比べものにならないくらい頻繁に登場するようになってきた。
おそらくそのきっかけになったのは2010/07/09のこのニュース。
・「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴(読売新聞)
事件そのものはブログ「助産院は安全?」の2009/09/29のエントリ(「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴 )で既に採りあげられており、上記の読売新聞のニュースはその事件が訴訟に発展したことを伝えるものだった。
ホメオパシーとはヨーロッパ起源の民間療法で、Wikipedia によると
もし健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質をごくわずか与えることで体の抵抗力を引き出し症状を軽減するという理論を掲げる治療法
とされている。
しかしこれが、アレだ。
まず前提条件となっている「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質をごくわずか与えることで」本当に「体の抵抗力を引き出」せるかどうか、という一番重要な理論自体にまったく根拠がない 。
もしその部分に疑問を持たなかったとしても、「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質をごくわずか与える」という部分の「ごくわずか 」がどのくらいわずかなのかを聞くとどうだろう。
ホメオパシーに用いるレメディー(「療剤」とも)は、地上におけるさまざまな物質から成分を取り出して、水やアルコールで10倍ないし100倍の希釈を行い、それを震盪(よく振ること)して作られる。
......
この希釈・震盪を6回から1万回繰り返して、最後にこれを小さな砂糖粒に染み込ませて作成する。たとえば10倍希釈・震盪を9回繰り返して作ったレメディーは9X(Xは10倍希釈を意味する)、100倍希釈・震盪を30回繰り返したレメディーは30C(Cは100倍希釈を意味する)と呼ばれる。もっともよく使われるのは30Cであり、ほかに200C、1,000C(1Mと呼ぶ)、10,000C(10M)、6Xなどが用いられる。
この希釈がどのくらい凄いかといえば、
最も広く利用される30Cの希釈とは10030 倍希釈、すなわち1060 倍の希釈を意味し、これはアボガドロ定数さえ遥かに超える巨大な数である。しかし実際に摂取する砂糖粒は小指の爪以下の小さな塊であり、この中にはもはや原成分は1分子たりとも存在していない はずである。
というくらい。
そもそも、「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質 」ってモノイイが凄いじゃないの。K2シロップを健康な人間に与えたら起きる症状って何?そしてそれと似た症状を引き起こすであろう物質?
ちなみに世の中には不安とか嫉妬とか怒りのレメディーすらも存在する 。
つまりホメオパシーさんは不安や嫉妬や怒りといった感情を引き起こす物質を知っている ということ。
#考えてもみてよ。「この物質を与えると、人間は嫉妬を感じます」「これだと怒りです」みたいな物質が、普通にあると思う? で、それと「似た症状」を起こす物質って、それに輪をかけて「何??」って感じ。
で、これを「原成分は1分子たりとも存在していない」くらいに希釈して(つまり単なる水 )、これを砂糖玉にしみこませて飲むのがホメオパシー。
つまり、ホメオパシーはいろんな「なんじゃそれ?」の集合体なのだ。(^O^)
「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質
(そんなんあるの!?)
をごくわずか与えることで
(「ごくわずか」って、それ、ゼロですから)
体の抵抗力を引き出し症状を軽減する。」
(そもそもそんなことで「体の抵抗力を引き出し症状を軽減」するの?)
こういう冗談みたいなものが、世の中には広まっている。
注意してもらいたい。
◆
「そんなもの、真に受ける奴なんかいるわけないじゃん」と、ホメオパシーについては初めて知った読者は思うかもしれない。
ところがぎっちょん(死語)。
世の中はあなたの予想の斜め上を行く。
そもそもドイツ人のハーネマン医師の思いつきからスタートしたホメオパシーは、ヨーロッパではそれなりに広まっており、英国王室でも用いられているのだ。
といっても、そんなことは↑のわけわからん理論の裏付けには一切ならない。
ホメオパシーはこのあたり(「英国王室御用達」「ヨーロッパでは普通にレメディが売られている」「保険も適用されている」)をセールストークにして日本でも広まっているのだけども、現在はイギリスでもその有効性は否定的となっていて、つい先日も英国下院科学技術委員会がホメオパシーにプラセボ以上の効果がなく、ホメオパシーは保険適用すべきでないとの報告書を出している。
#ただし保健省はこの科学的見解を受け入れながらも保険適用は続ける決定を出した。いろいろ政治的な力が働いたのかもしれないが、効かないという前提で保険適用を続けるのは公共財政からの支出としては訴訟リスクが高まったりして健全性への圧力が強くなるだろうから、将来的には遅かれ早かれ保険適用外に進んでいくだろう。
この1ヶ月ほど、ホメオパシーの話はネット上でも多くの議論が積み重ねられており、もし興味があればkikulog あたりからでもたどっていってほしい。
◆
上記の通りホメオパシーのレメディは単なる砂糖玉 なわけで、だから別に体に悪いわけではない 。
その意味では確かに「副作用」はない。
しかし効きもしない。そもそも「主作用」(って言葉あるのかな)すらないと。
という意味でいえばホメオパシーは無害なんだけども、しかしその先には大きな問題がある。ホメオパシー「治療」を受けることによって、
「レメディーを取ってるから病院に行かなくてもいい」
と、通常医療を受けなくなってしまうところ。
特にホメオパシーの現場では、売り文句として「西洋医療の弊害(副作用・薬漬け・対処療法に過ぎない、など)」が用いられることが多く、ユーザーは「病院での診療/投薬」の代わりとしてホメオパシーのみを用い、ひいては本来の診療を受けないまま深刻な結果をもたらすことになりかねない。
こうなってくるともはやホメオパシーは「有害」と言わざるを得ない。
風邪のようにいつの間にか治ってしまうものなら、レメディーを飲んで病状がピークになったら「好転反応だ!」(好転反応については後述)と喜んで、治ったら「レメディーで治った!」なんて呑気なことを言っててもいいけど、もっと重篤な病気でそんなことをしたらどうなるか。
実際に冒頭のK2シロップの件では乳児が亡くなるという最悪の事態に陥った 。
最近話題になったものでは、こういうものがある。
・主訴は腎臓です。2歳で発病し、2年ほど入院し、今は通院しています。10歳になりました。
これはあるホメオパシー団体がやっているQ&Aだが、この相談の中に、こういうものがあった。
病院では、免疫抑制剤がだされ、毎日飲まなくてはならず、とても疑問を感じていたところに、ホメオパシーに出会い、やってみたいと強く思い、相談会を申し込みました。3回めの相談を受けたところです。
今は病院の薬は飲ませていません。
かんじんひぞう、バーバリスをとっておりますが、調子よさそうにしています。
ただ、やはり毒だしのレメディ(抗生剤、全身麻酔、胸腺の毒だし)をとると、すごい好転反応がでてしまいます 。わかってはいますが、ちょっと続けられないくらい、顔、特に目がはれてパンパン、足もむくみ、蛋白尿がでて、みているのが辛くて断念してしまいます。
「好転反応 」とは......このQ&Aを開設している団体の指導者由井寅子氏はこう言う(後述の朝日新聞記事より)。
好転反応について、ホメオパシー医学協会の由井さんは「症状は有り難い」との持論で説明する。ホメオパシー治療では、病気の症状がかえって激しく出ることがあるが、それは治療で自己治癒力が向上したことの証しの「好転反応 」で、有り難いことなのだ、という理論 だ。こんな極論を信じた結果、患者は症状が悪化しても「良くなっている」と思いこみ、病院に行くのを拒否する、というのが梅沢さんの指摘だ。
しかしそりゃ薬をやめて砂糖玉飲むだけになれば、病状も悪化するわなあ、普通に考えて。という話。
これを放置すればどうなるか、容易に想像がつくはずだ。
で、この相談者。
腎臓が悪い10歳児は病院の薬を与えられず、代わりにいくつかの砂糖玉だけを与えられて「好転反応」が出まくっている......。
このページを見た医師をはじめ、多くの人がこれは緊急事態だとこの子供を助けるべく関係機関に情報提供を行ない、警察も動いて児童の無事が確認されたという事態が、ごく最近にあった(⇒経緯はkikulogのこのエントリとコメント欄 を追えばだいたいつかめる。
その後、このサイトはこの騒動へのフォローとして、こんなすっトボけたコメント を掲載した。
記事No.3388の件で、このお子さんの状態を心配される投稿がありましたので、詳しい状況を本人に確認しましたところ、ホメオパスからも勝手に判断して薬を止めるのはよくないので検査や現状把握のためにも病院に通うことは必要であると言われ、お医者さんとの相性が悪いということであれば、セカンドオピニオンで他のお医者さんに診てもらうのも一つの方法であると前回の相談会でも言われており、この点よく理解していますということでした。近々定期検査のため病院にもいく予定になっていますということでした。お子さんですが、現在は、体験談に書いた通り調子よさそうにしており、いたって元気で学校にも通っているとのことでした。
好転反応についてはかなり大げさに書いてしまったとのことでした。また、その好転反応ですが、投稿した内容からもわかるように過去のことで、現在はほんの少しむくんでいる程度で、こちらも近々ホメオパシー健康相談会を受ける予定になっており、そこで出されたレメディーをとって好転反応がでたときの対処方法を聞きたいと思って投稿したということでした。
今回は、いろいろな人がこの体験談をみて下さっているということがわかり嬉しく思うと同時に、心配してくれアドバイスしてくれたということにとてもありがたいと思いました。この度は、管理人として、注意や配慮が不足していたと反省しております。
今後とも何か気づいたことなどありましたら、ご連絡やアドバイスなどいただけると大変ありがたく思います。今後ともよろしくお願いいたします。
つまり相談者が答えてもらいたいがゆえに大げさに書いたのだという内容。
しかし相談者が話を大げさに言ったとしても、命に関わるような相談に対して病院に行くことではなくさらにレメディを勧めたという事実は全く変わらない(「勝手に判断して薬を止めるのはよくない」云々も、あとで確認してそういうことを言ったということがわかったというだけ。これも本当かどうかわからないけど)。
今回は警察などの協力により実際の質問者が特定できたことと、「大げさに言った」というオチがついたため最悪の事態にはならなかったが、これが「大げさ」でなかったらどうだったか、こんなネット上に情報が出てこず、自分たちだけで「好転反応」に耐え続けていたらどうなったかを考えれば、ホメオパシーを「無害」と言うことはできない。
◆
上記の通り、ホメオパシーは効かない。
つまり、こういうこと。
ホメオパシーってのは、文字を消すのにキン肉マン消しゴムを持ち出すようなものなんだ。
「消しゴム」と呼ばれているけど、一度でもあれで文字を消そうとしたことがある人はあれがほんとの消しゴムじゃないのは知ってると思う。
#そもそも当時バンダイは一度も公式に自社製品を「キン肉マン消しゴム」「キンケシ」とは呼称していない 。
あれで文字を消そうとしている人に対し、普通の人は
「キンケシで文字を消すのは無理。だいたい材料からして消しゴムじゃない」
と言い、ホメオパシーを信じちゃった人は
「普通の消しゴムで遊べますか?文字が消えることで笑えますか?」
と言う。いや、あんたそれ使って何したいの? 誤字を消すことが目的じゃなかったの? それ消さないと困るんだよ?という話。
「消しゴムは消す時にカスが出るけどカスの出ないキンケシはクリーン。カスによってどれだけの人が苦しんでいるか。だから文字を消すのにキンケシ使いましょう」
「いや、キンケシだと文字消えないってば。無理矢理消そうとしたから、紙がえらく汚くなっちゃったよ」
「それは好転反応です。誤字はありがたい」
えええええええ。
「消しゴムは誤字が書かれて初めて消そうとするんです。キンケシは楽しく遊べるため、そもそも誤字をしないように体質改善するんです」
「キンケシで誤字をなくすのは無理です、はい。そもそもキンケシじゃ書かれちゃった文字が消えないって言ってるのに」
「文字が消えることで幸せになれますか? 幸せになるためにキンケシを使うんじゃないんですか?」
てめー。
◆
何? わけがわからない?
それが正解。
◆
参考リンク:短いし良記事なので、是非読んでみてほしい。
・問われる真偽 ホメオパシー療法(朝日新聞)
・ホメオパシー療法、信じる前に疑いを [10/08/03]
・[解説]「ビタミンK与えず乳児死亡」提訴(読売新聞)
◆
今年1月に邦訳が出た『代替医療のトリック 』(サイモン・シン)という本の中でホメオパシーに効果がないことについて書かれていて、最近になってそれに対する「反論」がホメオパシー側から出てくるようになった。
しかしたいてい「反論」といいつつ反論になっていないところが笑える。たとえば「代替医療のトリックに対するホメオパスの反論 ~アロマテラピーと自然療法の専門誌 アロマトピア の連載記事 」(食の安全情報blog)あたりを見ると概要がわかる。
『代替医療のトリック 』の中でホメオパシーがどういう扱い方をされているかについてNATROM氏による書評 を見るとだいたいつかめる。
◆
【追記:2010/08/11】
2010/08/11のasahi.comにこんな記事が載った。
・代替療法ホメオパシー利用者、複数死亡例 通常医療拒む
代替療法ホメオパシーを利用している人の中で、病気が悪化して死亡する例が相次いでいる。通常の医療は末期になるまで受けていなかった。東京では5月、国立市の女性(当時43)が、がんで死亡した。埼玉でも昨年5月、男児(同生後6カ月)が死亡した。女性の遺族らは先月、「憂慮する会」を設立し、ホメオパシー療法家らに真相解明を求めて運動を始めた。
......
ここまで来ると、こういう信念はむしろ宗教に近いように見える。それもカルトな。
この記事を見て、読者はひょっとしたらエホバの証人の輸血拒否事件 を思い出すかもしれない。
エホバの証人(という「キリスト教」宗派)の信者が、聖書の記述(「血を避けるように」「血を食べてはならない」)の独自の解釈により自分や子供への輸血を拒否し、最悪(彼らにとってはそうではないが)の場合、死亡するという事件が話題になった。
しかしエホバの証人信者の輸血拒否事件と、この記事にあるようなホメオパシーユーザーの通常医療拒否とは明らかに違う 点がある。
エホバの証人の場合、これを拒否したら非常に悪いこと(場合によっては死ぬ)ことを理解しており 、しかしそれよりも信仰を優先するという判断がある。
しかしホメオパシーの場合、患者は治る気満々なのだ。
治りたいが故に、これをやれば治る(「西洋医学」では治らない)と信じて ホメオパシーに傾倒する。
つまり、目的が違う。
それが本人ではなく、小さな子供だった時には違いがもっと鮮明になる。
子供が死ぬかもしれないが信仰は破れないとして輸血を拒否するエホバの証人と、「『西洋医学』を受ければ余計に悪化する」からと、子供を治したいがゆえに病院での治療を拒否するホメオパシー。
そうした結果、親は起こってしまう現実をどう理解するだろう。
#ただし子供にとってはたいした違いはない。どちらもダメ。
こう考えると、カルト度はエホバの証人の方が高いが、起こり得る結果について、患者/信者に不誠実なのはむしろホメオパシーの方ではないか。
#「信じる」という言葉には「信頼・信用」という意味と「信仰」という意味の両方が含まれていて、時には混同され「科学教」などという奇異な言葉が使われたりするが、ちゃんと分けて使わなくては話がめちゃくちゃになってしまいかねない。
##この話の場合、エホバの証人信者にとっては「信仰」であることは問題ないとして、ホメオパシーユーザーにとってホメオパシーはどう「信じる」対象なのか。「信頼・信用」から出発したのだとは思うが、「信仰」が混じっていないと言えるか。正直、かなり渾然一体とした状態ではないかと思う。
◆
突然食いたくなったものリスト:
本日のBGM:
Big Jangle /HOLLYWOOD MOTORS
ググった限り全然売れなかったようだけども、いいバンドだったと思うんだよなあ。この曲なんて「風格」すら感じる。こういうストレートというか、王道すぎるロックは時代には合わなかったのかもしれないねえ。ライブハウスとかで酒飲みながら聴くには最高なんだけど。
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