食の安全情報blogさんの「食品添加物の解説記事を機関誌に掲載する生協は「変節」したのか?」というエントリを読んだ。
このエントリそのものについて異論があるわけではなく、むしろ賛同している。私がここで採りあげたいのはこのエントリで紹介されている生協の機関誌(「コープかながわ機関誌 MIO 9月号 」(pdf))について。
だったらどうしてこのエントリまで紹介したかというと、単に、読んでもらいたいから。(^O^) いいブログなので。
当該エントリでも紹介されている、この機関誌の食品添加物についての記事の中にこんな部分がある。

以前、中華料理屋で通常使用量以上の調味料を摂取した人に中毒症状が出るという話がありました。(※下記(5))
で、ここで示される「下記(5)」の記述はこう↓。
|
(5)グルタミン酸の話 グルタミン酸(昆布のうま味成分)による中華料理店症候群が問題にされたことがありました。 (1960年代に中華料理を食べた少数のアメリカ人が食後に眠気、顔面の紅潮、掻痒感、頭痛、体の痺れなどの症状が見られたとされ「中華料理店症候群」と呼ばれました。) 食品添加物の専門家の西島基弘先生(実践女子大学教授)が学生と一緒に実際に食べたところ、調味料として必要な量の100倍(数グラム)くらいを一度に摂ったときアゴがひきつる感じがした人がいたそうです。これはグルタミン酸を大量に口に含むと唾液が一度に出るためと思われ、通常使う量ではこのようなことは起こらないと指摘しています。 いずれにしても使い方と量を考えることが大事であって食品衛生法の使用基準を守ればありえないことです。極端な話をするならばカフェインも、コーヒーを1、2杯飲むならば大丈夫ですがもし100杯を一度に飲めば問題が起こり、誰もこのようなことはしないでしょう。 |
このマンガの部分で筆者が示したいのは、量の概念を無視して危険性を議論しても無意味という至極当たり前の(しかし「不安」を感じちゃう人々には理解されにくい)話なんだけども、それを伝えるためにこの例が適切かどうか。
「中華料理店症候群」については、以前にうちのブログのエントリ「化学調味料関係のとりあえずのメモ(その4)」で書いた。そこからご紹介。
|
グルタミン酸の安全性 グルタミン酸はタンパク質中に最も多く存在するアミノ酸であるから、われわれは毎日の食事でかなりの量(1日約20g)のグルタミン酸を摂取している。したがって、グルタミン酸は本来安全性の高い物質であるとみなされてきた。ところが、1960年の後半から1970年代にかけて、グルタミン酸の安全性に疑いを投げかける報告が相次いでなされた。 第1の報告は、生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を注射すると、脳の視床下部の一部の神経が細胞死するというもの。 第2の報告は、中華料理を食べたあとに、その中に含まれているグルタミン酸により、顔がほてったり、頭痛がしたり、動悸がするといった症状(中華料理店症候群 Chinese Restaurant Symdrome, CRS)がみられたという報告。 |
この「第2の報告」が「中華料理店症候群」。
これらの「報告」を受けて、
|
JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)はMSGを中心にグルタミン酸について安全性評価を実施し、1973年の会合においてL-グルタミン酸を含む5物質について「0~120mg kg体重^-1 day^-1」のADIを設定した。 ※許容1日摂取量(Acceptble Daily Intake,ADI):認められるような健康上のリスクを伴うことなく生涯にわたり毎日摂取することができる、単位体重あたり(標準的な人=60kg)で表現された食品添加物量についてのJECFAによる見積もり。 またこの会合において上記「第1の報告」について議論され、このADIは生後12週前の乳児には適用しないとされた。 |
つまりこの2つの報告により、1973年にグルタミン酸はADI(健康上のリスクを伴うことなく生涯にわたり毎日摂取することができる量)が設定された、と。
しかしその後、グルタミン酸の安全性について多くの研究が行われた。
「第1の報告」(生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を注射すると、脳の視床下部の一部の神経が細胞死する)については、
| 食物の成分を注射して安全性を議論することはいささか的外れの議論で、その後の研究では、大量のグルタミン酸を口から摂取しても大部分のグルタミン酸は消化管で代謝され、全身を回る血液中には移行しないことが明らかにされた。したがって口から大量にグルタミン酸を摂取してもグルタミン酸が脳に移行することはありえないと結論されている。 |
そして「第2の報告」(中華料理を食べたあとに、その中に含まれているグルタミン酸により、顔がほてったり、頭痛がしたり、動悸がするといった症状(中華料理店症候群 Chinese Restaurant Symdrome, CRS)がみられた)については、
| その後の二重盲検法による検査により、グルタミン酸摂取と中華料理店症候群の間には有意な関係はないと結論されている。 |
のだと。中華料理店症候群についての実験の中には、こんな↓ものもあった。
| グルタミン酸ナトリウムに敏感(6症例)であると主張している人を対象に、プラシーボを用いた二重盲検比較試験。この試験で6gのMSGの摂取に対する反応を検討したところ、2例はMSGとプラシーボの両方に陽性の反応を示し、ほかの4例は両者に対しまったく反応を示さなかったという。 |
というわけで、中華料理店症候群とMSGの関係は否定されつつある。
そしてその他多くの試験結果に基づき、
| 1987年、JECFAはグルタミン酸のADIを、"0~120mgkg体重^-1day^-1"から"ADIを特定しない(ADI not specified)"に変更した。なおその際に、「グルタミン酸の使用に関して妊婦および乳児を特別に扱わなくてはならない科学的根拠はないが、食品添加物の一般的見解としてグルタミン酸についても生後12週以前の乳児には使用すべきでない」という文章が追加されている。その後EU委員会および米国FDAもこの結論を支持している。 |
となっている。つまりどれだけ食べても大丈夫だと。
長々と書いたが、結局、この機関誌のマンガのように「中華料理店症候群」をグルタミン酸ナトリウムの過剰摂取と結びつけることは、そのこと自体が時代錯誤だし、更にその解説として
| 食品添加物の専門家の西島基弘先生(実践女子大学教授)が学生と一緒に実際に食べたところ、調味料として必要な量の100倍(数グラム)くらいを一度に摂ったときアゴがひきつる感じがした人がいたそうです。これはグルタミン酸を大量に口に含むと唾液が一度に出るためと思われ、通常使う量ではこのようなことは起こらないと指摘しています。 |
を出してくるのは「中華料理店症候群」の説明としても間違っている。
(ただ、「やっぱりモノには限度がありますなあ」という話自体はその通りだとは思う。どのような実験だったか興味がある)
もしそのくらいで本当に「中華料理店症候群」が起こるなら、ラーメン○郎では毎日患者が出ていないといけないだろう。

【資料画像】
これが「耳かき1杯」には見えんわね。家庭でもチャーハン作るのならこのくらい平気で入れちゃうだろう。
確かに食品添加物についての話だし、このあたりの話を例として出したくなる気持ちはわからないでもない。しかしこの特集は食品添加物について「迷信」を排除して合理的に判断していこうという明確な意図に基づいて組まれているのだから、やはりこんなことしちゃいかんと思う。
追記:2010/08/27
だって、もし「想定外なほどたくさん使ったら、そりゃ何だってマズいよ」という話の例として「中華料理店症候群」を出すんなら、それは中華料理店では普通に「想定外なほどたくさん使」われていて、今でも危険があると言っているようなもんだから。実際にはそんなことはないのだから、そんな人身御供のような例を出すのはアンフェアだ。
追記:2010/08/27ここまで
#重ねて言うが、この特集そのものは食の安全情報blogさんと同じく、高く評価している。その分、「残念」だったことを指摘しておきたいというだけ。
##この記事には「無添加をうたい、安全と誤認させる商法は詐欺といえないまでも不適切です。食品添加物を正しく使うほうが食品の安全性が保たれることも多いのです」といった、非常にマトモで、考えてみれば当たり前の、しかしともすれば一部の「生協」のイデオロギーに反しかねない記述がしっかり書いてある。素晴らしい。
突然食いたくなったものリスト:
- 板チョコ(夏はなかなか食べられないよ)
本日のBGM:
河内音頭 /河内家菊水丸
盆踊りといえば河内音頭。他の地域、北大阪でさえどうなのか知らないけども。

コメントする