私は応えるよ。あなたはどうする?

 これまで何度も書いた(と思う)が、2000年代に入って大阪(関西?)のラーメンは格段に進歩した。

 それまで極端な「スープ重視」だった(あるいはスープすら重視されていなかったかも......)のに対し、麺への強いこだわりを持つ若い世代の店が増えたことが、1つの大きな原因だと思う。
 同時に、それを客がちゃんと受け止めて店に足を運んだことももちろん大きな要因だ。店と客が呼応して2000年代の関西のラーメン浮上のムーブメントを作ってきたと、私は思っている。

 このムーブメントの中で、庄司忠臣氏(秀次郎麺哲)の果たした役割は非常に大きい。彼個人への好き嫌いは人によって大きく分かれるようだが、たとえ庄司氏が嫌いな人であっても、彼が00年代の関西ラーメン界に及ぼした影響の大きさを否定することはできないだろう。
 極端なことを言ってしまえば、関西ラーメン界の歴史は「庄司前/庄司後」に分断される。まあこういう表現の中では、庄司氏本人だけではなく、00年代前半に店を開いた若い世代を代表させることになるが、確かに彼はその世代の象徴的な存在となっているといっていいだろう。

 前述の通りこのムーブメントは、麺を重視する店側と、それをよしとして足を運んだ客のそれぞれの意欲が結びついて起こったものだ。客は舌で、「庄司前」時代のラーメンとの質の違いを実感した。しかしこの違いが一体何なのか、これは感覚だけではなく、情報としても共有されることになる。つまり、「麺がうまい」ということ。

 庄司氏が意図したかどうか、望んだかどうかは別として、「麺がうまいラーメンがうまいラーメン」という主張は、新し物好きのテレビ/雑誌などでも採り上げられ、広がっていった。
 この過程で、「客の啓蒙」という部分は少なからずあったはずだ。
 麺に関するこだわりを述べ、製麺室での製麺行程の写真が雑誌を飾る ── 90年代には考えられなかったことが、現在では普通になっている。「真空ミキサー」なんて言葉、それまで誰が知ってただろう?
 こういう情報があってこそ、客は「ああなるほど、麺がうまいと感じたけども、こういうことをやってるからか」と思うわけだし、それに価値を見出すことができる。そしてそれらの蓄積と実食の経験が客側の舌を肥えさせていくのだろう。

 こういう情報は本来、極端に店側(作り手)の情報であって、表(客側)に示されるようなものではなかった。しかしその「内情暴露」をあえて行なっての「客の啓蒙」こそが、「スープ重視」から「麺重視」への大きなパラダイム・シフト(大ゲサ(^O^))を成し遂げた大きな原因だったのだと思う。

 つまり、「麺がうまいラーメンがうまいラーメン」⇒「確かに麺がうまい。今までのラーメンとどう違うの?」⇒「こうやって作ってます」⇒「へええ」という過程を繰り返すことで「麺がうまいラーメン」の存在は確立したのだ。
 そしてそうやって麺の存在に気づいた客が、「この店の麺とあの店の麺は違うな。何が違うんだろう?」ということに興味を持つのは、あまりに普通のことだ。それまでの「啓蒙」でそれなりの知識を得てしまっているのだから。
 特にいろんなラーメンを食べている人たちにとってはそうだろう。彼らにとってラーメンは単にラーメンではなく、「○○の△△ラーメン」だ。それぞれの旨さの違いに興味を持たない方が不思議だ。

 庄司氏は自身のブログを持っている(「麺の話 by 赤シャツ」)。この中で庄司氏は、自身の培ってきた経験から、麺にまつわる話をかなり詳しく綴っている。このブログは同業者に対して書かれたものではなく、一般客が読むことを前提にして書かれている(*)。

(*)グルメウォーカーでの麺哲のページでは、「ブログを始めました。興味ある方は見て下さい。」としてこのページを紹介している。

 ここではそれこそ昔では前面に出て来なかったような(出てきたとしても誰にも興味を持たれなかったような)専門的な話題も多く語られ、まさに上述の「客の啓蒙」の役割を果たしている。実際、ラヲタたる私としては非常に勉強になる話がたくさんあった。

 さて、そのブログに最近、新しいエントリ(「麺の話21」)が上がった。ここで庄司氏はこう書いている。

過去に、フリークの方々に一時期多かった質問が「加水は何%ですか」「麺の番手は何番ですか?」といったものがあった。
正直申し上げて「聞いてなんになるの?」と思う。

加水を上げ下げ?、圧延回数?、ちぢれ?ストレート?番手?そこまで知る必要があるのだろうか?
ぶっちゃけ、ご興味がおありなら、ラーメン職人になれる素質が十分おありと判断できる。
実際麺を打って、ラーメン屋さんにもっていくといいと思う。もしくはご自分で開業されてはどうか?

思い切って書いてしまったが、個人的見解である。

 もちろん「個人的見解」であるからそれはそれで構わない。

 しかし私の「個人的見解」としては、その興味を持たせたのは一体誰なんだ?と思う。
 これまでさんざんそういう知識を表に出して客の麺への興味を煽っておいて、「聞いてなんになるの?」はないと思う。だったら「どうして教えたの?」ということにはならないだろうか。

 私自身、これまでも店で、

「いや、そういう話は素人さんは知る必要のないことです。お客さんはただ『うまい』『まずい』だけを考えていただければ」

 といった言葉を庄司氏から投げかけられたことがある((^^;; )。まあウンザリしているんだろうなぁというのはお察しするが、しかしここまで客が麺に興味を持ち、(たとえ中途半端であったとしても)知識を持つようになったのは何故なのか、ということを考えてみれば、ここに来て「そんなことに興味持たなくていいよ、ただ『うまい』『まずい』だけを考えろ、そんなに興味があるんなら麺職人になったら?」というのは、正直そりゃないよと思う。

 「個人的見解」ということだから反論しても仕方ない話で、そう思うこと自体に文句をつけるつもりもない。

 ただ、最後に「まあ、どう思われるかは人それぞれなのだが」と書かれているとおり、私は私で持った「個人的見解」を書かせてもらった。

 そしてもう1つ「個人的」興味がある。

 このエントリには、

それとこれも持論だが「スープと麺の相性の話」は「食べ手」が決めるのではなくあくまで「作り手」が決めるのである。誰がなんと言おうと作り手がラーメンを出してきたら、それが全てだ。明らかに麺とスープのバランスが悪い場合でも、その一杯が作り手のセンスだしそれが作り手の「味」なのだ。それを相性の話にすることはない。ましてやラーメンの「味」はスープのみで決まるのではなく、麺の味、トッピングの味も全て「作り手の味」なのである。麺とスープが「合っていない」時は「そのラーメンは好みではない」これで十分だ。それ以上の話をするのは作り手に感想を求められた場合にあくまで「感想」として申し上げるべきである。

 という話が出てくる。

 前段で言いたいことは......、数多くの要素があって総合的にしか捉えようのないはずの「ラーメンの味」を、「スープと麺との相性」という一面の切り口で(他の要素を捨象して)解釈するのは「的外れ」であり、もしも評価するとすれば「好みかどうか Y/N」という軸くらいしか適切な評価軸(に最も近い軸)はないのだ、ということだと思う。

 なるほど。
 それはそれで作り手側の見解として正しいのだろうなと思う。

 そして後段、一番最後の、

麺とスープが「合っていない」時は「そのラーメンは好みではない」これで十分だ。それ以上の話をするのは作り手に感想を求められた場合にあくまで「感想」として申し上げるべきである。

 という部分については、私はこう↓考える。

 数多くの要素があって総合的にしか捉えようのないはずの「ラーメンの味」を、客側が自らの経験なり知識なり体調なり感情なりetc.......に従って解体し再構成するのもまた、(店側にはできない)客側の味わい方のはずだ、と。

 映画や小説と違って、食べ物には固定的なテキストがない。全く同じものを全く同じ時間に同じ場所で食べたとしても、別の人が食べたのであればそれは別の味わいがあるはずで、あるいは同じ人であっても時間が違えば違うものだ。あるいは同じ1杯のラーメンを食べている間に起きた出来事で味が変わるかもしれない。そしてそれは再現不能。だからこそ食べ物は不安定で、なおかつ面白いのだ。こうなると必然的に映画や小説よりも評価者の個人性が前面に出て来ざるを得ない。この、「個人性が前面に出て来ざるを得ない」ことをもって、「ちゃんとした評価は不可能」とするか、「それを前提とした上でも、一定の共感を呼ぶ/説得力のある評価は可能」とするかは人それぞれだろう。そして私は後者を採る。

 書かれる店側としては的外れなことが書かれていて苛つくことも多いのだろうと思う。
 しかしその的の外し具合というのは、「書かれない」ことではなく「書かれる」ことによって、狭められていくのではなかろうか。

 これは上記の意見を庄司氏が「持論」として確固として持っているのと同様、私もまた「持論」として確固として持っているのであって、これからも変えるつもりはない。もちろん私自身の経験なり知識なり体調なり感情なりetc.......が足りずに的外れなことを書くこともあるだろうが、その場合は指摘してくれればいい。コメント欄も掲示板も用意している。(その意味では今回の庄司氏の「麺とスープの相性論」は参考になった)

 というふうに、私は考えている。

 で、長くなってしまったが、私が個人的に興味があるのは、この「持論」に対するいわゆるラヲタだとかラーメンブロガーと呼ばれる人たちの見解なのだ。

 「持論」「個人的見解」とは書いているけれど、これはきっと、彼らへの庄司氏からの問いかけなのだ。「彼ら」と書いたが、これには私も含むだろう。だから↑を書いた。

 庄司氏を嫌いで彼のことを認めていないという人であればこれを無視してもいいのだろう。しかし庄司氏を認め、かつブログなりサイトなりにラーメンについて「好み」以上のことを載せている人は、この問いかけ......つまり、

麺とスープが「合っていない」時は「そのラーメンは好みではない」これで十分だ。それ以上の話をするのは作り手に感想を求められた場合にあくまで「感想」として申し上げるべきである。

 という問いかけにそれぞれがそれぞれなりに応えるべきではなかろうか。

 いやもちろん、別に名指しで問いかけられているわけでもないわけだから無視してもどってことないといえばそうなんだけども。

 何というのかな。

 誠実に考えてエントリを上げた作り手としての彼の心意気があるように、それに応えるブロガーとしての心意気、というか何というか。

 いやまあ、いいんだけどね。

 それぞれのラヲタなりブロガーなりが、自分がする「評価」についてどういうスタンスに立っているのか、この機会に改めて表明するのも悪くないと思うのよ。

 誰か、書かない?

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  • 村雨

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コメント(3)

管理人 :

>麺とスープが「合っていない」時は「そのラーメンは好みではない」これで十分だ。それ以上の話をするのは作り手に感想を求められた場合にあくまで「感想」として申し上げるべきである。

店頭で聞かれもせんのに「おたくの味は……」とやるのは品がないからやらないよ。それは麺とスープが「合っていない」時だろうが何だろうが。

うまい時は聞かれなくても言うけど。

カムロ :

こんにちは。
じぶんちのコメント欄が荒れた時に都度書いてるような気がしますが、改まって書いた事は無いですなぁ。超リピーターの私の場合、完成度・センス・職人度において、カドヤ食堂、麺哲、一信(一時閉店)、無鉄砲(豚の骨)は殿堂入りで、早くこの四軒(四人)に続く(追い越す)お店がどんどん出て来て欲しいと心から願ってます。他の店主さんが努力されてないとは思ってませんがこの四軒は群を抜いている。
比較の対象はこのラインに置いているので、他店を食べる時の評価は当然辛くなりがちです。

時間的制約が多くフットワークの重い私でも又食べたいと思わせてくれるラーメンかどうかが一番重要なポイントですねえ。

管理人 :

>カムロ さん

こんにちは。

その節はお世話になりました。m(_ _)m

どなたからも反応はないだろう(問いかけが問いかけですし、そもそも弱小ブログですから)と思いつつ書いたのですが、反応をいただけて驚き、そしてうれしいです。ありがとうございます。

 又食べたいと思わせてくれるかどうかというのは、とても大きいですよね。それ自体が「??」でも他のはいいかも?という期待を抱かせるかどうか、とかも含めて。

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