一信@此花区
ええええと。
此花区の醤油そば 一信というラーメン屋は、この数年間、私の「関西で一番うまいラーメン屋」の評価が動かなかった店だ。

醤油そば 一信@此花区
人にうまい店を聞かれればこの店を挙げたが、交通の便があまりに悪いため、私が同行しない限り実際に足を運んだ友人はほとんどいなかったけれど。
ここの主人の住田氏の仕事ぶりはほんとにきっちりしていて、何と言ったらいいのか、食べる側に信頼を与えるものだった。「この人なら変な物は出さない」と。
味もさることながら、この店で私が一番印象に残っているのは厨房の綺麗さだ。開店から8年経っても、厨房の壁のステンレスは鏡のように客の姿を映し続けた。これは毎日きちんと掃除をしていなければできないことで、彼の仕事が客の前だけのパフォーマンスではなく、彼自身の身についた几帳面さであることの現れだと思う。
住田氏は某老舗有名店で3年間修業し、さらに3年間市場で働きながらアパートでスープ作りに明け暮れた。そして市場を辞めて1年間は、ただひたすらに研究を続けたのだという。
住田氏が修業に入った頃の大阪のラーメンはほとんどが豚骨だった。彼が修業した店は塩ラーメンの店だったけども、いずれにせよ「醤油」ではなかった。しかし彼はかなり早い時期から「醤油でいこう」と決めていたのだという。
おばあさんが料理の非常にうまい人だったそうで、特に「だし」の記憶が鮮烈なのだと語ってくれた。この話を聞いたときはここらでお客さんが入ってきて続きは聞けなかったけども、そのおばあさんの料理のだしと醤油が、彼の「旨いもの」の原体験だったんだろうと思う。
麺は製粉会社から買っている。千葉製粉だと言っていた。
他では作っていない黒小麦入りの麺は、色や香りのインパクト以上に、独特の食感を持っていて驚く。そばに近い「プツン」とした歯切れのいい食感だ。
この麺と出会って、「醤油そば」で行こうと決めたそうだ。
一信の醤油そばについて、どう旨いかを説明するとすれば......「バランス」というしかない。
この店はこれといった高級食材を使っているわけではない。
昔、夏に行ったときに、
「夏の間は煮玉子は出してません。ウチは安い玉子使ってるんで......」
と言っていたのを思い出す。
あるいは彼が店を始める前に3年間市場で働いたのは、ラーメン屋を始めたときにいい食材を安く仕入れるためだった。現在でも市場には自分用の棚を確保してもらっており、底値で買ってそこに置いてもらっているのだという。
これによってそこそこの食材を安く仕入れることができ、さほど客足がない店でもやっていける原価に抑えられているのだと。
「チェーン店さん並とは言えませんけど、それに近い原価でやらせてもらってもらってますよ」
と言っていた。
この店は高級な材料ではなく、その手間で旨さを出しているのだ。
麺はそばに近い食感ではあるけども、豚骨が8割、鶏が2割というスープのコッテリ感は「やっぱりこれはラーメンなのだ」と念押しをされているようでもあるし、だしの利いた後味はうどんのようでもある。
チャーシューも独特で、ここにしかない味だ。噛めば噛むほど味が出る、ちゃんと肉の味がするチャーシューだ。
脂の多い肉の塊を醤油と砂糖で甘辛く煮たらいいと思っているラーメン屋が多い中、一信は旨いチャーシューを出す貴重な店でもあった。
これらの個性的なパーツでありながら、その個性は高級さから来るものではなく手間から来るものであり、それらが個々で目立つことはなく、足りないものもなく過剰なものもなく、全体として「旨い」に収斂していく。
......たかがラーメンに大袈裟な言い方だなぁ。
バランスがいい。
無駄なものが一切ない。
うまい。
これでいいよね。

醤油そば玉子入り(¥750)@一信
この一信が、2009/03/10の昼営業をもって8年の歴史に幕を閉じた。
事情は明かされなかったが、客が入っていないからというわけではないようだ。
残念だ。
私もこれだけうまいと言いながら、去年の10月以来行ってなかった。
どうしても場所の問題があるもので......。
それが1週間ほど前、ある方からメールが届き、閉店について知らされた。
住田氏が「大事にならないように」とネット上にあげることをあまり希望していなかったため、ほとんど店内告知のみで伝わったようだ。だから実際に店に出向いていない私は知りようがなかった。
もしメールをいただかなければ、閉店したずっと後に知って後悔することになったと思う。
メールをくれた方(名前を出していいのかどうかわからないのでこういう表現をします)、どうもありがとうございました。本当に助かりました。m(_ _)m
この1週間、私はできる限り店に食べに行き、昼夜合わせて6回(^O^)食べた。
うまいと言っておいてあまり頻繁に足を運ばなかったことの罪滅ぼしというか、自分への言い訳というか、そんな気分だった。
しかしこれで、後悔しない程度には食べられたと思う。
その間、たくさんのラーメン屋さんの姿も見た。売り切れた後に来て残念そうに帰った人も。(^^;;;
同業者にしろ普通のお客さんにしろ、帰るときはみんな、
「ごちそうさま」
「ありがとう」
を力を込めて言っていた。
客は店への感謝をこの言葉でしか表せない。
みんな、そのもどかしさを感じているようだった。
いつも通り、
「ありがとうございます」
と対応する住田氏に、少し未練がこもった視線を送りながら、みんな名残惜しそうに店を出て行った。
「先のことは何の予定も決まってません。やるともやらないとも」
ということだが、私はいつの日か復活する日を信じているし、またその時、住田氏が、
「おっと、これはブランクを取り戻さないと」
と気合いを入れ直すほどに、住田氏のいない関西のラーメンが発展していることを願っている。
では改めて、
「ごちそうさま」
「ありがとう」

こちらこそ、ありがとう
いつでも食いたいものリスト:
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本日のBGM:
心もよう /井上陽水
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9日10日と連ちゃんで行ってきました。
名残りおしそうなお客さんで一杯でしたね。
早期の復活を祈ります。
ラーメン屋さんもたくさん来ていましたね。
皆さん住田さんの志を受け継いで、一信を超えるラーメンを作っていただきたいです。